桂さんに続いて中に入ることが許された武家屋敷。

その場所は、私にとって居心地がいいと
思える場所ではなかった。


何故なら、その場所には私が新選組と
行動を共にしていたことを知る人たちが居たから。


桂さんの後ろを歩いているから、
すぐにどうこうってことにはならないと思うけど
だけど屋敷の中を歩いていく私に向けられる視線は
友好的な雰囲気など持ち合わせていない。



それぞれに刀の柄に手を添える素振りを見せながら
睨みつける視線。



その視線には、いろんな思いが込められているような
感じがするけれど、それに理解を示したいと思えるほど、
私の心境もゆとりがあるものじゃなかった。




そこへ、一人の門番が駆け込んでくる。





「桂さん、池田屋が新選組によって襲撃されました。
 池田屋から逃げてきた望月が表で助けを求めています」




ヤバすぎるでしょ。



池田屋の新選組襲撃。


門番が告げたその報告に、
刀を解き放ったその場の人たちの視線が
一斉に私に集まる。



一触即発になりそうな緊張が高まった空気を
おさめるように、言葉を放ったのは
目の前に居る桂さんだった。



「門を閉ざせ。

 我藩は今回の一件に一切関与しない。
 君たちも、その剣を納めたまえ。

 彼女は、高杉の来客。
 手出しすることは許さぬ」



そう言い放った桂さんの言葉に
今も納得出来ないと言いたげな表情を見せながら
刀を納めていく。




それ以上は、誰も一言も言葉を発することないまま
時間だけが過ぎていく。


桂さんもまた静かに目を閉じて
何かを思っているみたいだった。




そんな桂さんとは別に、その場に居た浪士たちは、
門の方へと視線が向けられている。




多分、助けることが出来なくなった
自分たちの仲間のことを考えているのだろうと推測できた。



張りつめ続ける空気に居場所を見出すことが出来ない私は、
必然的に壁際の部屋の片隅で一人、
体育座りで体を小さくすることしか出来なかった。