もしかして……山南さんも花桜と一緒に
ずっと戦い続けてるのかも知れない。





山南さんは、声を荒げることなく
真っ直ぐに私の視線を捕えて、
ゆっくりといろんなことを考えさせてくれる。





狭すぎる視野を一刀する観察力。





「岩倉君、貴女は自室へ戻りなさい。

 四国屋にしろ、池田屋にしろ
 新選組の行いを良しと思わぬものが、
 屯所を襲撃しないとも限らない。

 今は主な幹部が出払っています。

 他の者たちは、この後も警戒を怠らぬように」




「はい」





山南さんの言葉に次々と返事をする隊士たちは、
それぞれの持ち場へとキビキビと動き始めた。






『池田屋事件』



新選組の歴史を語るに大きすぎる一大事件。



屯所に残された者たちの名もまた、
後世に語り続けられているものではない。


選ばれなかった隊士たちは、
何故、自分たちが留守番役になってしまったのか
自暴自棄になってるものも居たかもしれない。



新選組の中で存在意義を見出せなくなってしまっていたかも知れない
彼らにも山南さんのその言葉は大きく届いたかもしれない。




響いたかもしれない。






隊士の声をきいて、笑みを浮かべると
山南さんはゆっくりと真っ暗な夜空を見上げて
何処かへと歩きだした。



そんな山南さんを見送って、
私も自分の部屋へと戻る。






先ほどまで体を動かし続けたのも
一因にあるのかもしれないけど
布団の中に体を横たえると、
私の意識はそのまま眠りの中へと吸い込まれていった。










翌朝、いつもと同じように目が覚めると
花桜や舞の代わりに、炊事場へと赴いて
朝餉の支度をして、隊士たちへと食事を勧める。


そして、帰ってくるであろう隊士たちを迎える為に
食事の準備を進める。


近所の人から、分けて貰った
新鮮な京野菜を使って作る浅漬け。



そしておむすび。




午後、屯所内が慌ただしくなった。


それを受けて、私も慌てて
裸足のまま中庭へと飛び出す。







血だらけのだんだらの羽織。



大空に雄々とたなびく新選組の旗。



そして隊列を組んで、
屯所まで帰ってきた人たち。