池田屋事件当日。


花桜と舞は土方隊として総司は、
史実通りに近藤隊として屯所を後にした。


シーンと静まり返った屯所内。


屯所を照らす、篝火の炎だけがやけに赤々と視界にとまる。


屯所内の警備も、留守番役の隊士たちががっちりと固め
どんな状況になっても対応できるように
張詰めた空気が漂っていた。


そんな中、ただ待ち続ける時間は長すぎて
時間を弄んでしまう。


一人部屋に居ても、気になるのは総司の事ばかり。



総司が倒れる未来を知りながら、
池田屋に送り出すことしかできなかった。


花桜に全てを託して、
一緒に同伴する道も選べなかった。



私が行きたいって言ったら、
近藤さんや土方さんたちからの反対は
大きかったと思う。


だけどそれ以上に、
総司に負担をかけたくなかったから。



そして私が一緒に行くことによって、
総司がその場で、その命が奪われてしまうかも知れない
未来が訪れることが凄く怖かった。




私が居なかったら、
足手まといになる人はいないはずだから。





だから倒れても、総司の命が奪われることなく
またこの場所に帰って来てくれると思いたかったから。



その命を助けたい。
守りたい。



だけど……史実よりも早く、
その命が尽きることはどうしても避けたかったから。



剣も何も出来ない私が、
その場所に行くことはやりたくなかった。





そう……。




私がこの場所に居ることによって、
巻き添えになって消えてしまった
犠牲になることのなかった命。



その命を奪ってしまった、
苦い経験は今も私の心に
ズッシリと痛みを残し続けているから。




だけど総司を守るために、
屯所に残ったって自分の中では思っていても、
やっぱり待つ時間は辛い。



一分、一秒がとても長くて、一人、部屋に閉じこもってみても
脳裏に過るのは、総司が命を落としそうになる不吉なビジョンばかり。


眠ることも出来ず、必死に精神を平常に立て直そうと試みるものの
私の思い通りにはなってくれない、自分の心。



総司が、何時帰ってくるって言うのが
史実と同じなら想像はつくけれどだけどそれもまた確実じゃない。


私がその時代を経験して、
同じ時間を繰り返して生きてるわけじゃないから。


何時帰ってくるかも知れないのに、
屯所を離れて、鴨ちゃんと梅さんの
お墓に拠り所を求めることも出来なかった。




どうすることも出来ない私自身を
何とか保たせる方法として考え付いたのはただ一つ。