「山波、総司」




そう言って駆け上がってきたその人に、
私は「大丈夫です」っと呟いた。




「総司はどうした?」

「多分、この暑さにやられたんだと思います。
 私の世界でも、この時期は倒れる人が多いの。

 剣道の防具の中なんて、拷問で。

 人が生きて行くために必要な塩分が
 なくなっちゃうんです。

 それで体温が調整できなくなる。

 塩を沖田さんの口の中にいれました。
 ポカリがあればいんだけど。

 ないから……とりあえず塩。

 お水と砂糖が手に入れば、
 経口補水液が作れます。
 
 それを飲ませれば、
 もう少し落ち着くと思うんだけど」




そう言うと土方さんはすぐに
言われたものを集めてくれた。




えっ?



信じてくれたの?






嬉しいような、気味が悪いような。






そんな複雑な心理の中、
山崎さんがすぐに駆けつけて来てくれて、
私は経口補水液を沖田さんにゆっくりとふくませた。









翌日の昼時。


私はすべてが片付いた池田屋から
新選組のメンバーと屯所へと向かう。





新選組の旗に、
だんだら羽織を翻しながら。






負傷した隊士たちは、
戸板に寝かせて運びながら。





今も戸板で横になってる
沖田さんの隣を、
私もゆっくりと歩いた。



ただその中に、
舞の姿だけはなかった。




京の人たちのひそひそ話と、
見世物をみるような目が
私たちに突き刺さっていく。





歴史的に大きなこの事件は、
私たちの思い通りに、
変えられることもなかった。








この時代の事件は
大きな何かに操られているみたいに
未来で教えられた歴史通り
時を刻み続けていた。