だけど……お屋敷通りなら、
晋兄に会えるかもしれない。





疑われるのを承知で、
探るように晋兄の姿を探す。




その時、暗闇の中息を潜めるように
身を潜めていたらしい誰かが
背後から私の体を引き寄せる。




背後から抱きとめられたような
格好になった私の喉元には、
小さな短剣が添えられている。




「何者だ。
 何故、この辺りをうろつく?」



静かな囁き声で、
耳元に告げられる言葉。



その言葉を呟きながらも、
その人は肩で息をしているのが
視界にとまった。




「人を探してるの。
 私の大切なお兄ちゃん」



お兄ちゃんって言ったのは、
間違いじゃないよね。


晋兄は晋兄だもん。




次に耳に届いた複数の足音。





その音が聞こえるたびに、
その人が背後から私に込める力が強くなっていく。



「何?」

「黙ってろ。
 悪いようにはしない」



そう囁いたその人は、
私の両腕を後ろ手に紐らしきもので
素早く縛ると、私の刀を抜き取り、
庇うように身をかがめた。



近づいてくる
足音は今も緩む気配はない。




後少し、足音を聞きながらそう思った時、
目の前に居るその人が、
剣を握りなおしているのが視界に入った。



斬りあう気なんだ。




覚悟を決めて、その瞬間に備える。





近づいた足音は、
その人の前でピタリと止まって、

『桂先生』と言葉を発した。




桂先生?




聞き覚えのある名前に、
私はその人の顔を暗闇の中
じっくりと確認しようと試みる。