未来も歴史もどうだっていい。


ただ大切な人を守りたいだけだから。
  

泣き崩れた私に、義兄は刀をおろして
ゆっくりと肩に触れた。





「舞、君が何を言おうと僕は僕の意思を変えることはないよ。

 例え、それがどんな結果であっても。
 僕の誇りは、そこに刻まれているから。

 舞……覚悟は出来てる。

 京に来る前に、一生分の雑煮は食べてきたから」




京に来る前に一生分の雑煮を食べてきた。


そう言った義兄の言葉は裏を返せば、
もう死ぬ覚悟はとっくに出来ていると宣言されたことと同じで。
 

その言葉に何も言い返せなかった。




「舞……倖せにおなり……」  



義兄は、そう言って私の前から姿を消した。


私が義兄と言葉を交わした最後の夜。


どれだけ強く望んでも、未来も歴史も
簡単に変わってくれない。




この時代を生きる強い力が、未来からきた小さな力の言葉なんて
全て飲みこんでしまうようで。










「帰るか」






そう言うと、
斎藤さんは私をゆっくりと抱え起こした。





「あっ……の……。
ここの人たちは?」


「後は土方さんに任せる。
 山崎君が伝達に行ったはずだ」




私は斎藤さんに支えられるようにして、
その宿を後にした。





真っ暗な夜に、時折ふく生暖かい風が
不気味な夜だった。