思い浮かんだビションを払拭するように
全否定する私の心。



枕元には、何時でも食べれるようにと花桜と瑠花が、
準備してくれたらしいおにぎりが用意されていた。


ちょうど正直なお腹は、
グーと音を鳴らしそのおにぎりに手を伸ばして、
ゆっくりと頬ばった。



具も何も入っていない、
ただの塩おむすび。




だけど……とても優しい味がした。



ご飯を食べ終えると、
自分の部屋からゆっくりと抜け出す。


周囲は随分と日が落ちて、
真っ暗だった。


息を潜めながら、屯所内の抜け出して
駆けていくのは京に来て最初の夜に泊まった宿。


流行る気持ちは、私の足をその場所へと少しでも早く着くように
前へ前へと踏み出させていく。




「あぁ、アンタ……」




宿に着いた途端、私を覚えてくれていた女将さんが
中へと迎え入れてくれた。




「ご無沙汰しています。
 晋兄と義兄は?」



口早に伝えると、女将さんは一つの部屋に
私を案内してくれる。

女将さんの後、ついて上がったその先の部屋に
逢いたかった一人、義兄の長身の姿が見えた。



「義兄!!」



溜まらなくなって抱きついた私を義兄は抱きとめると、
ゆっくりと髪を撫でて肩をさする。


「逢いたかったの」


何度も何度も繰り返しつぶやいた。



嬉し涙を落ち着かせて、ゴシゴシと手のひらで涙をふき取る私に、
自分の手ぬぐいを差し出す義兄。


それを受け取って、
その手ぬぐいに涙を吸収させていく。




「今まで何処に行ってたの?」



問いかけた言葉。
私の知らない義兄と晋兄の時間。




「舞、落ち着いて」



義兄の言葉が聞こえた後、私の座る前にも机が置かれて
そこに食事が並べられる。