「じゃ、渡したからな。
 ほら、行くぞ。タキ」



そう言うと、男の子はタキと呼ばれた
女の子の手をひいて屯所を後にする。


「有難う」


手渡された手紙を帯の間に挟んで、
そのまま隊士たちに声をかけて中に入る。


早々に庭掃除を終わらせて、
自分の部屋に引きこもると、
ゆっくりとその小さく折られた手紙を開けた。




*


今宵、
最初の宿で待つ


*



短く、それだけ記された手紙の筆跡は
見覚えがある、義兄のものだった。


晋兄と義兄に会える。


それは私にとっては嬉しいことで、
だけどこの場所で、その喜びに浸ることは出来ない。




ここの人たちは、晋兄や義助さんたちと
敵対している幕府の人たちなのだから。


この手紙も落として見られたら大変だよ。


最後にもう一度手紙を開くと、
文に綴られた義兄の筆跡を
上からなぞるように指先で触れる。




大丈夫。




もうすぐ会える。




ずっと思い続けた二人に再会できる。



だからこの手紙も手元になくてもいい。


何度も暗示をかけるように自分に言い聞かせると、
庭掃除をした草と一緒に文を燃やしてしまおうと部屋を出た。


先日草むしりをした、青々とした草が枯草へと姿をかえた今なら、
この手紙も一緒に燃やしてしまえる。

その草を両手で掴むと庭の隅で火をつける。

そこにゆっくりとくべる義兄からの手紙。


手紙は火の赤に包まれて
すぐに焼き尽くされてしまう。


誰にも見られてないと思ったのに、そうは上手くいかない。




「おいっ、何を隠した?」



私の座り込んだ背後に迫って、トーンの低い声を突き付けるのは
鬼の副長と呼ばれる土方さん。


この人だけは私がここに連れてこられたその日から
今日まで一度として態度を変えることがなかった。


だからって、私は何も言えない。