新選組の屯所で暮らす生活。


その生活が今の私にとって当たり前のように
なりかけていたある日、その日は突然訪れた。



「加賀さん、小さな子供が表に」


そう言って屯所前を守る隊士の一人が
庭掃除をしていた私に声をかけた。


今までならあり得ない。


なのにここの生活に馴染みすぎた私には、
こうやって隊士たちも部外者扱いではなくて、
ここに生活する仲間として受け入れてくれている気がした。



そう……仲間……。



だけど私には忘れてはいけない二人が居る。




晋兄と義兄……二人は何処にいるの?


心に思い続けるのは、
私の大切な二人の無事……。






*


……そう……



彼らを……守りたいから、
大切な人を守りたいから……
私は……この場所に居るのだから。


*



心の中、まるでもう一人の私が
そこに居るように湧き上がってくる言葉。


意識の奥に引きずられそうな感覚に、
頭を振って気を紛らわせると
そのまま箒を壁に立てかける。



「すいません。
 今行きます」



そう言って屯所の入り口の方へと向かった。

屯所前に居たのはまだ小さな子供。


その子供は当然ながら、
私が知る由もない存在だった。



「お姉ちゃんが舞姉ちゃん?」


訪ねてきたのは
兄妹の関係らしい子供が二人。


大切そうにお団子を抱えて嬉しそうに
笑う妹っぽい女の子。


お兄ちゃんらしい男の子が
そう切り出す。


「えぇ。
 私が舞よ」


屯所内に居る隊士たちに会話が聞かれてもいいように、
当たり障りのない言葉を切り返す。



「今日、お使いに来たんだ」
「来たんだ」


兄の言葉を真似るのが楽しい妹。



「これ、兄ちゃんから預かってきた。
 舞姉ちゃんは読んだらわかるって」


そう言って手渡されたのは小さく折られた文。


差し出されたそれをゆっくりと受け取ると、
にっこり微笑み返す。