「気が付いた?
 
 まだ横になってる方がいいよ」



その人は、分厚い本をゆっくりと閉じて
立ちあがると、私の方へとやってきた。



さっき来てくれた人とは違うみたい……。



「晋作から聞いたよ。
 名前……思い出せないの?」





晋作?



名前?





何……。



「あぁ、晋作って言うのはさっき会ったよね。

 高杉晋作。
 
 近所の海岸に打ち上げられてた
 君を助けて連れて帰った。

 僕は……義助」



その人は、ゆっくりとした口調で
私の身に起きた出来事を教えてくれた。



「義助さん……」

「そう……。
 
 君は記憶を失ってしまったんだね」





記憶……?




私は失ってしまったの?






「久坂、入るぞ。

 女子は気がついたか?」




再び襖が開いて姿を見せたのは
義助さんが晋作と呼んだ人。



「……晋作……さん?」

「あっ、あぁ。
 名前、覚えたのか?」



その人の言葉にゆっくりと頷く。


「晋作。

 少し話してみたけど
 覚えてないよ。 

 この子……」


「そうか……。
 
 久坂、お前の介抱の仕方が
 悪かったんじゃねぇか」

「僕の責任にするの?

 晋作なんて夜中に寝てる僕を
 叩き起こして、この子を強引に
 僕に預けただけじゃなかった?

 助けろって」




晋作さんと義助さんは、
私なんかお構いなしに二人会話を続ける。