「斎藤さん……」


躊躇いながら、その手を握ると斎藤さんの指先が、
私の掌に出来た硬くなったタコに触れる。



「山波のところに行くのか?」



戸惑う私に斎藤さんは、何も告げずに
花桜の名前を出した。



「花桜、帰って来たって聞いたから」

「よかったな」


そう言いながら、
やっぱり私の前を歩いて行く。


その後ろをゆっくりと歩いて行くと
近藤さんの部屋の前で、
ゆっくりと正座した。



「斎藤です。
 加賀を連れて来ました」

「入れ」




中から声が聞こえると、
斎藤さんはゆっくりと襖に手をかけて
扉を開いた。





「あぁ、舞っ!!」




部屋の中から飛び出してきた、
花桜は私に思いっきり抱きついてくる。


花桜の温もりが、
安心感を伝えてくれる。



「お帰り、花桜。
 何処行ってたの?」


「帰ってた……。

 気が付いたら、私……
 向こうの世界に居たの」


「帰ってたって……。
 
 だったら、
 どうして戻ってきたのよっ!!」


「一人で……
 一人で戻るなんて、出来ないよ。

 三人、一緒に帰るって
 そう約束したんだから……」




そうやって、
唇を噛みしめる花桜。




バカっ、

大馬鹿、花桜。






嬉しいのに……素直に喜べなくて、
花桜の体をポカポカ叩きながら
その場に崩れ落ちた。





「どうして、
 帰って来たのよ」




絞り出すように伝える。