……鴨ちゃんが死んだ……。



覚悟していたはずなのに心は思ってた以上に正直で、
お別れの葬式まで踏ん張った直後、私は崩れ落ちてしまった。




花桜はあの日以来、行方知れず。



必死に探すものの、見つかる気配はなく、
毎日、記憶を取り戻した舞が私の部屋を訪ねてきてくれた。



「瑠花、入っていい?」



舞の声を受けて、ゆっくりと布団から這い出すと、
襖をゆっくりと開いた。


「はいっ、今日のご飯。
 やっぱり向こうで食べるの嫌でしょ」

「……うん……」



舞の言葉に素直に頷いた。


あの人たちは……鴨ちゃんを殺した人だから。

どれだけ鴨ちゃんが礎になることを望んだとしても、
人、一人の命を奪った人だから……。


そんな人たちと一緒に生活はしてたくないよ。

かといって、
ここから飛び出す勇気もない。


だから……何も出来ない。



食欲はないものの、舞が作って来てくれたもの
食べないわけにもいかなくて少しだけ食事に手を触れる。


ご飯に味噌汁。
お漬物に焼き魚。



たったこれだけの食事なのに私たちの世界みたいに、
パスタや、ハンバーガー、中華料理にフランス料理。


そんなにいろんな食文化があるわけじゃないのに、
ただこれだけの素朴な食事がこの時代では
とても大きいものだと言うことも今の私は知ってる。


憎むべき存在に養われないと生きていけない現実。



そんな苦い現実を噛みしめながら、舞と二人食事をすすめた。



「ねぇ……。

 舞……花桜どこ行ったと思う?」



小さな声で呟く。




あの日、花桜が私を助けに来なければ……
あそこで襲われなければ花桜が危険な目にあうことなんて
なかったのかも知れない。


そんな罪悪感が心の中を掠めていく。



「帰ってて欲しいなー。
 花桜だけでも懐かしい世界に……」


食器を置いて、ゆっくりと立ち上がると、
襖をあけて、空を見上げながら小さく呟いた。


うん……。



花桜だけでもあの世界に帰ってくれてたらいい。
この世界は悲しいことが多すぎるから……。