「おいっ。
 どうしたんだよ。

 花桜、体震えてるぞ。

 唇も真っ青になってんじゃねぇか?
 何やってんだよ」




心配そうにかけられる敬里の声にも、
今は何も返事することすら出来なくて。


私の脳裏は、肉の中に吸い込まれていった刀の感触だけが
リアル襲い掛かっていく。


真っ赤な血が、私の右手へと伝わる。


手が洗いたい衝動に駆られて、
帰り道のコンビニの洗面所へと駆け込む。


洗面台の水道水の蛇口を捻って
何度も何度も洗剤をつけて手を洗うのに
その血が消えることはなかった。



「花桜っ。

 何やってんだよ。
 びしょびしょになってんだろ」


「手が……」

「花桜の手は、汚れちゃいねぇよ。
 ほらっ、水道水止めるぞ」



敬里は、そこから手を伸ばして蛇口を回すと、
その場所から私を抱えながら連れ出した。



そのまま、何も言葉を交わすことなく、
自宅へと連れて帰った。



懐かしい温もり、懐かしい景色。
私が帰りたかった場所。




なのにそこには……
大切な親友は存在しない。





「花桜、大丈夫?」




私を気遣ってかけられる言葉も、
今は……私の心の奥までは届かない。






ふとテレビが歴史ミステリーの番組の放送を始める。



幕末の時代の推測番組。



お世話になったあの場所で、ずっと一緒に生きてきた、
その人たちの懐かしい名前が次から次へとTVから流れてくる。


そんなTVを食い入るように見つめながら、
ゆっくりと瞳から溢れだす涙……。






瑠花や舞に……。


皆に……皆に逢いたいよー。




私の本当の居場所に帰るために、
私は何をしたらいいの?






……山南さん……山崎さん……。
どうしたら私は向こうへ帰れますか?



祈るような思いで、
二人の顔を思い描いていた。