だけど亡くなった人は残った者たちが、
天国に見送るのはどの時代でも同じことで。


すれ違う隊士さんに、
思い切って声をかける。




「あっ、あの……。
 花桜が、人を斬った場所教えてください」



花桜の名前を出した途端、
隊士さんは、私の方を真っ直ぐに見つめる。


「私、花桜がこの世界で頑張ってきたこと、
 ちゃんと受け止めたいんです。

 ようやく、
私もこの世界に馴染めた気がするから」



それでもその人は、私の間者疑惑が抜けないのか
何も答えない。



そっか……。


やっぱり、人は簡単に信用して貰えないよね。


私だって……やっぱり、
この場所にお世話になってても、
この人たちを信用しきれない。


だって長州の人たちが瑠花の大切な人を殺すなんて
考えられないし、思いたくない。


なんで……犯人が誰か憶えてないんだろう。


歴史の授業で、習ったはずなのに。



「加賀君の相手は私がしましょう。
君は持ち場に戻ってください」



背後から、柔らかな声が聞こえて
姿を見せたのは、確か……山南さん。



花桜が、この世界で剣術の稽古をつけて貰ってた人。
隊士さんは、丁寧に一礼して持ち場へと戻っていく。



「加賀君でしたね……」

「はいっ」



少し寂しそうに私の名前を紡ぐその人。


その表情は穏やかな笑みに包まれて見えるけど、
何処か切なく見えて。



「あの……花桜が人を斬ったという場所を教えてください」


「山波君が人を斬った場所……。
 それを知って貴女はどうするのですか?」


「どうもしません。

 ただその場所を知って、花桜がこの世界で
 どうやって生きてきたのか、
 私は同じ時代からこの世界に渡った親友として
 知りたいと思った。

 お互いの知らない時間を……。

 そして、花桜が願ったことを今は受け継いで行きたい。

 瑠花のことも含めて。
 それでは答えになりませんか?」


思うままに、紡ぎだす言葉。


今の私には、ちゃんと地面が見えてる。


晋兄や義助たちのことは凄く気になるけど、
このまま瑠花を一人でここに置いていくなんて出来ない。


かといって、
この場所から瑠花を連れ出すことも不可能。


花桜の件もあるから今は、
この場所で花桜の帰りを待ち続けることが
私たちにとってのベストの選択。


そんな風に思えたから。



「どうぞ、私についてきてください」



ゆっくりと目を閉じて開いた後、
そう紡ぐと、山南さんは前川邸の方へと続く庭へと歩みをすすめる。


そこには……昨日の雨で、
血は洗い流されてしまっているながらも
打ち捨てられた剣が、置き去りにされていた。


花桜が握っていたであろう剣にゆっくりと手を伸ばす。
触れる間際、少しためらって山南さんの表情を見つめる。



「剣に触れていいですか?」


一応、確認した後、
同意を得て握った初めて触れる真剣は思っていた以上に重くて。


ゆっくりと持ち上げて、刀の刃をじっくりと見つめると、
雨が流し切れなかった人の血が小さな染みを作って刃の上で乾いていた。