「……そんなのないよ……。

 そんなのないよ……」



泣き崩れて叫ぶ私を鴨ちゃんは無言で抱き寄せる。

その後ろからはお梅さんの手が、
ゆっくりと添えられて、背中をさすってくれる。


この温もりも……今日までなんて……。




「瑠花、お前には手を出さねぇように言ってある。
 お前は今日は隣の部屋で寝ろ」




あの政変の後から、ずっと鴨ちゃんの部屋で、
隣に布団を敷いて眠ってた。



「いやっ……。
 鴨ちゃん、今日も……」



ようやく止まりかけた涙がまた流れ始める。



「駄目だっ。
 瑠花、お前は今日は一人で寝ろ。

 生きて、見届けろ。
 お前は、こんなところで死んじゃいけない。
 
 生きて帰るんだろ。月へ。
 違うか?」




そのまま鴨ちゃんに腕を掴まれて、
自分の部屋へと連れて行かれる。



灯りのついていない部屋。



ぺたんこの布団を被って、
ずっと震えながら泣き続けた。





……鴨ちゃん……。





それからどれくらい時間が経っただろうか?


感覚すらも定かじゃない時間。



外からは、降り出す雨音。


季節外れの……雷もなり始めて……
震え続ける拳を必死に握りしめた。



ふと、周囲が騒がしくなって
刀と刀が打ち合う音が、耳に届く。


二階から慌ただしく、
駆け下りてくる複数の足音。




私の部屋に近づいてくる小さな足音。





「瑠花っ!!。
 瑠花、居るんでしょ」




聞こえた声は……花桜。