最近、笑いが木霊すことがなかった
前川邸に、今だけは響く笑い声。



「芹沢せんせ。

 はいっ、お酒のおかわり」



湯呑を握りしめたまま、
お梅さんと戻った鴨ちゃんの部屋。


鴨ちゃんは自分でお酌しながら、
一本目を飲み終えて、
そのまま盃をお梅さんの前へ。


お梅さんも手慣れた手つきで、
お酒を流し込んで、その次は鴨ちゃんから返盃を受けて。



そんな幸せそうな二人の時間も
もう長く見れない現実が
私の心の中を乱していく。



ふと風が運ぶ、紅葉が一枚。



小さなその紅葉にゆっくりと手を伸ばす。



まだ早いのに……。




「瑠花、紅葉か……」


「うん。紅葉……。
 盃に浮かべて、飲む?」




そう切り返した私に、
鴨ちゃんは何かを考えたようにゆっくりと頷いた。



「はいっ。
 
 ねぇ、京の紅葉も綺麗なのかな?

 鴨ちゃん、今度とっておきのところ 連れてってくれる?
 お梅さんと一緒にさ。

 私、頑張って、おむすびくらい作ってみるからさ」



その願いは届かないことは知ってる……。


だけど……夢を見るくらいは……。
嘘でもいいから『あぁ』って、言ってよ。



お梅さんが注いだ盃に、
隣から、その紅葉を放り込んで浮かべる。


鴨ちゃんは、少しの間、
その紅葉を見つけて
一気に口の中に流し込んだ。



「……新見が殺された……」



盃をゆっくりと、床の上におく。



張りつめた空気が部屋の中を漂う。




「瑠花……土方らの企みなんぞ、とうに知れたこと。
 お前にも話した通り、俺の覚悟は近藤にもすでに伝えてある。

 新しい時代は壬生浪士組でも誠忠浪士組でもない。

 新選組だ。

 今宵、その時代の幕は開く」




えっ?



突然の言葉に体の力が脱力する。