そうやって、ゆっくりと湯呑を差し出すのは、
あの日、斎藤さんが見つけてくれた親友の舞。


舞の記憶は今も戻ってないみたいだった。



「おやっ、君でしたか。

 加賀君でしたね」



舞が持ってきた湯呑を盆から持ち上げると
ゆっくりとお茶を飲み干す山南さん。


「有難う。舞。
  それより久しぶりに舞、手合せしてよ」


舞から受け取ったお茶を飲みながら、
言葉を続ける。



そう、一緒に打ち合えばもしかしたら、
舞の記憶が戻るかも知れない。




舞は……この世界の人間じゃない。


私と同じ、
未来から幕末(ここ)に来たんだから。



私たちが、これ以上離れ離れに
敵対する必要なんて何処にもないんだから。




「山波君。
 加賀君も剣術を?」


静かに問う山南さんにゆっくりと頷く。



「舞は、うちの道場でずっと習ってたんです。
 剣道の全国大会に、一緒に出たことあるんですよ」



懐かしい記憶を辿りながら話すその言葉を、
不思議そうに目を細めて聞いてくれた山南さん。



舞の後ろには何故か、
斎藤さんが姿を見せていて。



「そうですね……。
 少し二人で訓練をしてみますか?

 私も山波くんたちが居た世界の剣術に少々興味が。
 斎藤君もそうは思いませんか?」


山南さんの呼びかけに斎藤さんもゆっくりと近づいてきて、
山南さんの隣へと腰をおろす。


「舞となんで、私、木刀とってきます」


一礼して、木刀を取りに走る傍ら、
瑠花が芹沢さんにべったりとくっついて、
楽しそうに笑ってる姿を見かけた。


そして……その傍にはお決まりの、
沖田さんが身を潜めて……。


そんな光景を横目に捉えながらも、
私は立ち止まることなくて、
目的のものを手にしてその場所へと戻る。



「舞、はいっ」




木刀を片手で、放り投げると
戸惑ったようにそれを受け取った舞。