「ほら、帰るよ」 そう言った奏多に握られた手。 この手を離さないでいられたら、どれだけ幸せだろう… そう、何度思ったことか。 …だけど現実は厳しいもので。 あっという間に着いたわたしの家の前で、するりと離されてしまった。 「送ってくれてありがとう」 「うん。…また明日な」 離した手を振り、背を向ける奏多。 その姿が見えなくなるまで見つめた後、さっきまで繋いでいた左手に、重い指輪をはめた。 ……結局奏多、昨日の女の子のこと、何も言わなかったな。 何もなかった、って思っていいのかな…?