「……ママがいればきっと、こんなことにはなっていなかったはずよ…」
悲しさと苛立ちからか、ずっと心にあった思いをふと口にする。
こんなことを言っても仕方ないとは分かっているけれど、この際そんなのはもうどうでもよかった。
ママがいなくならなければ、パパが忠見さんの会社に勤めることもなかったし、わたしがこの人に家庭教師に来てもらうこともなかった。
そもそもこの町に引っ越して来ていなかったかもしれない。
全部、ママが亡くなってからの話。
ママがいた頃の記憶なんてほんの僅かしかないんだって、この前気付いた。
今のわたしの生活に、その僅かな過去と関係するものがあるのだろうか。
今とは違う人生を羨めば、キリがない。
…でも、他の過去だったらきっと、…奏多と出会うこともなかった。


