あ…あの男の人素敵。

本屋で本を探していた私は、後ろ姿が綺麗な男性に心を奪われた。

背が高くて、スラッとしてて、着てるものもなんかカッコいい。

礼儀正しそうな服なのに少しくだけてて遊び心があって、どこかちょっぴり悪そうにも見えるアクセサリー。

こんなのを物おじせずつけられるこの人ってかっこいい。

ちょっと近づいてみる。

自然に。

なるべく自然に。

わあ…、顔もカッコいい。

芸能人みたい。

眼鏡がすごい似合ってる。

本屋で出会う男の人なんて経済本漁るオジサンとか、少年誌に群がる高校生くらいしかいなかったのに、こんな人もいるんだ。

顔が熱くなる。

指…長い。

まつ毛とかも長い。

どうしよう。
どきどきする。

本を真剣に読む姿も素敵。

声…、かけちゃおうかな。

本、好きなんですかとか、聞いてみようかな。

女子高生から突然声かけられたら驚くかな。

でも…、このまま会えなくなるの嫌だ。

そう思った。

よし。

頑張れ私。

声、かけよう。


決意する。


本の話題とかがいいよね。

ここ本屋だし。

立ち読みしてるわけだし。

ここ、漫画とか雑誌の棚じゃないし。

歴史棚だし。

ということは少なからずこの人、本読むのが嫌いじゃない人種だよね。

歴史とか好きならどっちかといえば本を愛してやまない人種よね。

活字中毒者…かな。

なるべく無表情を保ちながら私は凄まじく頭を回転させプロファイルを行う。

甘くときめいた時の女の子って最強だと思う。

ああどうしよう。

活字中毒者、…素敵。

うん。

やっぱり声かけよう。

ええと…、その本面白いですか、とかがいいかな。

面白そうですね、がいいかな。

探してたやつです、とか。

気が合うねとか何とか言われちゃったらもう。

きゃああ!!
きゃああ!!
きゃああ!!

落ち付け!!

落ち付け私!!


ふう。


…そういえば何の本読んでるんだろう。

そうよね。

まずそこからだよね。

うん!!

ええと…。

………。



『世界の拷問』。



………。

……………。

…………………。