春の風はまだほんのり冷たくて、火照った体を冷ますのには最適だった。
ひらひらと落ちてくる桜の花びらを一枚手にとって太陽に透かしてみる。


一面ピンク色の絨毯の上で歩いていた足を止めて、まだ誰にも踏まれていないだろう綺麗な場所に落ちていたピンク色のかたまりを両手ですくって少し息を吹きかけるとそれは重力に逆らうように一瞬だけ宙へ舞って、またひらひらと落ちていった。



頬の筋肉が緩んでいることに気付かずに、違う場所にあったピンクの塊をすくって今度は両手を高く上げてから手のひらを開く。
するとそれは四方八方に広がって、わたしの周りをピンク色に染める。


上げていた腕を左右水平にしてわたしが落とした花びらを掴もうとするとまるで花びらがわたしのことを嫌うかのようにひょい、と逃げるので少しだけムキになって右手はそれを追いかける。



狙いを定めてぎゅっと右手を握ってから手をひらくと一枚の花びらがそこにあった。
嬉しい気持ちで花びらを見つめていたら、それはくしゃくしゃになっていて、ところどころ千切れて色が淡いピンクから薄汚れた赤色に変色していることに気がついた。


なんだか悲しくなってきたので折角捕まえた花びらをぱっ、と地面に落とす。
そのままの態勢で頭の上の桜の木を見つめていたら、ひらひらと新しい花びらが落ちてきてそのままひらいていたままだったわたしの片手に舞い降りた。