時には、泣きたくなるときだってあると思う。
何で? って聞かれてもわかんないし、理由だってない。
体の芯の方からくる何かを吐き出してしまいたくて、しゃくりあげそうになる。
鼻の奥がつんとしたらそれは合図だから気をつけないといけない。
歩くのをやめたら、それは途端に溢れ出して海を作ってしまいそうだから歩き続けなければいけないのだ。
時々、意識を失いそうになることはあってもこんなに泣きたくなる事はなかった。



だから、戸惑う。
ひたすらどうしたらいいのかわからなくて、対処できなくて、今すぐ逃げ出したくて、でもそんなことをする勇気なんて持ち合わせてないからただただ何事もなかったかのように平気な顔をする。
そんなことを虚しいと感じた季節は何時の間にか過ぎていって、もう春だ。
笑わなきゃいけない。心配してくれる人がいるから。
もう迷惑は散々かけてしまったから、困らすようなことはしたくない。



漫画の中のような女の子に憧れた。
好きな子がいて、美人なライバルもいて、でも結局自分のことを好んでくれている人もいて、密かに人気があったりして、辛い思いもするけれど、最後は結ばれるのだ。
ライバルに苛められてもなんだかんだで友達になって仲直り。



……本当はわかってる。
泣きたくなる理由なんて。
でもそれを認めたくない一心で無理をする。
だから余計に心配される。
そんなのは、嫌だった。情けない自分にうんざりした。
大丈夫? って言われるたびに責められている気がしていた。



忘れたいと思えば思うほど、気持ちは膨らんで、膨らんで。
いっそ破裂しちゃえばいいのにと思うのに、そんなことにはならなくて。
苦しい。切ない。こんな感情を抱くくらいならと何時の間にか握り締めていた凶器。
すぐに消えた威圧感。それと共に何かが溶けて流れ落ちていった。
泣きたかった。でも泣けなかった。



それでも、頑張った。
どこか浮いている気はしていた。でも体が鉛になったようにどんどん沈んでいく。
もがいてもがいて必死に浮き上がろうとして、先に見える光を追いかけて。
差し伸べられた手をしっかり握って辿り着いた場所。
満開の桜が太陽にあてられてゆらゆら揺れて。





───出会いは、いつだって春だった。