がらんとした美術室は、一人で使うには広すぎる気がする。
西棟三階の書道教室と美術準備室に挟まれた、授業用の教室、兼、部室。
東側の中庭に面した窓からは放課後のこの時間には日はあまり射してこない。
かわりに廊下側の窓から西日が注ぐ。
現在の美術部の部員は六人。
半分が幽霊部員で、残りの半分のうちの二人は、今日は塾で、わたしとは入れ違いだから、結局金曜くらいしかそろうことはない。
イーゼルの上に小さめのキャンバスを置いた。
描いてあるのはワインの空き瓶にポット、靴と本が数冊に鉢植え、そして雨傘。
ただの静物画。
高校に入学して初めて描いた絵だ。
そこそこ大きめのコンクールで金賞まで入ったけど、顧問の妹尾先生の評価は酷評だった。
妹尾先生は毎週火曜と金曜にしか来ない、年配の非常勤講師。
愛称は『センちゃん』。
先生のフルネームは妹尾仙蔵。
だからセンちゃん。
だけどはっきり言って、生徒の評価はあんまりよくない。
好き嫌いが激しくて、すごく気まぐれだし、気難しい。
でもわたしは、先生は優しいと思っている。
そんなこと言っても誰も信じてくれないけど、本当にすごく優しい。
なにより、わたしが自転車で通える進学校を諦めて、わざわざ電車まで使って、一時間以上かけて、坂咲高校に進学することに決めたのは、センちゃん先生がいたからだ。
なんでこんな、あらゆることに置いてたいしてことない坂高なんかにセンちゃん先生がいるのかわからない。
校内でもそのことを知っているのはわたしくらいで、残りの人は興味もないんだろうけど、センちゃんはすごい人なのだ、芸術家としても。
センちゃんは職員室とは別に、第二準備室というプレートが下がった、ただの物置を自分の部屋にして使っている。
元は物置だけど、電気も通っているし、簡易コンロも水道も使えるからセンちゃんは授業以外で、めったにそこから美術室や職員室まで出てくることはない。
そういうわけで、大抵はこの広い美術室に、二時間近く一人でいることになる。
別にそれで不便があるわけじゃないから、いいんだけど。
西棟三階の書道教室と美術準備室に挟まれた、授業用の教室、兼、部室。
東側の中庭に面した窓からは放課後のこの時間には日はあまり射してこない。
かわりに廊下側の窓から西日が注ぐ。
現在の美術部の部員は六人。
半分が幽霊部員で、残りの半分のうちの二人は、今日は塾で、わたしとは入れ違いだから、結局金曜くらいしかそろうことはない。
イーゼルの上に小さめのキャンバスを置いた。
描いてあるのはワインの空き瓶にポット、靴と本が数冊に鉢植え、そして雨傘。
ただの静物画。
高校に入学して初めて描いた絵だ。
そこそこ大きめのコンクールで金賞まで入ったけど、顧問の妹尾先生の評価は酷評だった。
妹尾先生は毎週火曜と金曜にしか来ない、年配の非常勤講師。
愛称は『センちゃん』。
先生のフルネームは妹尾仙蔵。
だからセンちゃん。
だけどはっきり言って、生徒の評価はあんまりよくない。
好き嫌いが激しくて、すごく気まぐれだし、気難しい。
でもわたしは、先生は優しいと思っている。
そんなこと言っても誰も信じてくれないけど、本当にすごく優しい。
なにより、わたしが自転車で通える進学校を諦めて、わざわざ電車まで使って、一時間以上かけて、坂咲高校に進学することに決めたのは、センちゃん先生がいたからだ。
なんでこんな、あらゆることに置いてたいしてことない坂高なんかにセンちゃん先生がいるのかわからない。
校内でもそのことを知っているのはわたしくらいで、残りの人は興味もないんだろうけど、センちゃんはすごい人なのだ、芸術家としても。
センちゃんは職員室とは別に、第二準備室というプレートが下がった、ただの物置を自分の部屋にして使っている。
元は物置だけど、電気も通っているし、簡易コンロも水道も使えるからセンちゃんは授業以外で、めったにそこから美術室や職員室まで出てくることはない。
そういうわけで、大抵はこの広い美術室に、二時間近く一人でいることになる。
別にそれで不便があるわけじゃないから、いいんだけど。


