桐島くんと望に、半ば強制的に連れられて来た控え室の扉の前で、ジャージ姿の、相澤が立っていた。
予想通りというか、相澤はわたしを見つけるなり、「げっ」と顔をしかめる。
素直なヤツ。
素直で、すごく失礼だと思うけど。
 望はさっそく相澤に声をかけて、桐島くんは苦笑いでそれを見ている。
 わたしは映画のスクリーンを眺めるみたいに、ぼんやりと二人のやりとりを見ていた。
意外にも、相澤は積極的な望に押されぎみになって、戸惑っている。

「意外だろ?あいつ女の子と話するの苦手なんだよ」

 桐島くんは、いつの間にかわたしの隣に立って、二人のやり取りを眺めていた。

「…まあ、イメージはないね」

確かに、見た目だけで判断するなら、相澤はそのイメージには結びつかない。
どちらかと言えば、お喋り上手な印象だ。

「なんだっけ、ほら、何とかシュー。平岡だろ?走に譲ったの」

こういうことを、さらっと切り出せるのは、桐島くんだからだろう。

「善意でも好意でもないけどね。状況的に他に選択肢がなかったから」

苦笑いで答えた。

「よっぽど嬉しかったみたいだよ。自慢された」

おめでたい人。
鈍感で、単純で、非常に迷惑。

「走もさ、平岡の気に障るようなこと言ったのかもしれないけど…許してやってくれないかな。
あいつが自分から女の子に話しかけるなんて、ほんとに珍しいんだよ」

「別にもう怒ってないけどね。
今のところ相澤には関わると面倒な事にしかならなそうだし。
わかるでしょ?」

望のこと、いい加減気づいてるでしょ?という含みを持たせた視線で訴える。
桐島くんは黙って頷いて、お互い大変だな、と笑った。
ほんとにそうだね、とわたしも笑った。