事の内容は、できる限り簡潔に話した。
そもそもわたしは、昨日は機嫌が悪かった。しつこく話しかけてきてすごく迷惑だったので、適当にあしらっていたら、髪の色で人を判断するな、と勝手に怒って出て行った。

「ちょっと冷たくしすぎたかもしれないけど、外見で中身を判断するようなことは言った覚えないよ」

桐島くんは「走は咄嗟に相手の気持ちとか汲み取るの苦手なんだよ」とあきれ顔で笑った。
それから、「誤解するようなこと言った平岡も悪いと思うけどな」と真顔で付け加えた。
はいはい、わかってる、わかってると相槌を打つと、桐島くんは困ったような笑顔になった。

「自分の感情に任せて動いちゃうタイプなの。
しつこく話しかけたんなら、平岡と仲良くなりたかったんじゃねえの?」

それってサイテーじゃんと思ったけど、黙っていた。
桐島くんは相澤のことを大事にしている。
好きなものを悪く言われるのは、誰だっていい気分じゃないだろうから。

「いいなあ、真思。
わたしも仲良くなりたいなあ」

うまい具合に望が話に入ってきたので、愛想笑いで逃げた。
桐島くんの会話の相手が望に移ったので、ぼんやりと二人の様子を眺めていた。
 望は、桐島くんとは去年も同じクラスだったと言っていた。
それなりに仲もいいみたいで、だからわたしも桐島くんと話をしたりするわけなんだけど。

「今度の試合、観に来いよ。
走のこと知りたかったら、あいつが走ってるとこ見るのが一番だよ」

それが自分に向けられた言葉だと気づくまでに、時間がかかった。
言葉の真意を知ろうと桐島くんを見ると、まっすぐな目で見つめ返されてしまった。

「ねぇ行こうよ、真思。ね?」

「いつなの…それ」

たとえいつだろうと、答えは決まっているけど。
まず興味がない。
相澤にも、陸上にも。

「今週の日曜。
いいだろ?」

「うん…考えとく」

前向きに聞こえる、やんわりとした断り方だ。
自分のずる賢さを象徴する言葉かもしれない。

 桐島くんはいい人だ。
だからときどき思う。
この人いつか、すごく悲しい思いをするって。
思いがけず、思いがけない人に裏切られる気がする。
要は桐島くんは呆れるほどお節介で、可哀想なほど他人に優しいってことだけど。

「でさ…ごめん、平岡。毎回悪いんだけど、数学の課題プリント、写させて」

思わず笑ってしまった。
わざわざ話しかけてきた本題中の本題はそこだったらしい。