僕らが今いる今日は

 それでも今は、とりあえずのところ望とこうして友達なのだ。
望はいい子だし、嫌いじゃないし、できれば、もっと仲良くしてもいいかな、とか思い始めてしまっている。
今日はもう、いいや。と思い切って参考書類を片づけた。
望は意外そうにしていたけど、わたしが「もういいの。今日は飽きちゃった」と言うと、嬉しそうに笑った。

 桐島くんに話しかけられたのは、その直後だった。
ご丁寧に近くの椅子を引き寄せて、わたしと望のすぐそばに腰を据える。
物腰柔らかで、落ち着いた雰囲気の桐島くんには、わりと好感を持っているので別に嫌ではない。

「…昨日さ、平岡、走を怒らせたんだって?」

前言撤回。
爽やかな顔をして、桐島くんはとんでもない爆弾を落としてくれた。

「桐島、走って、相澤くん?相澤走くん?」

途端に、望が疑いと戸惑いの表情を投げかけてくる。
盲点だった、としか言いようがない。
まさかここから漏れるとは思わなかった。
ばれてしまったものは仕方がないので、「うん、まあ」と返事を曖昧に濁した。

「機嫌悪かったんだぞ。何したんだ?」

「もう向こうに聞いてるんでしょ?」

ちらりと望のほうを見ると、さほど怒っているわけでもなさそうだったので、少しほっとした。
むしろ話の全容が知りたいようで、興味津々といった様子でこちらを見ている。
わかりやすい子だ。

「まあな。でも一方的に平岡が悪いみたいなこと言ってたからさ。平岡って冷静だし、そういう奴じゃないと思うし、なんか走も誤解してんのかなと思って」

こういう物事を冷静に公平に見極められるところが桐島くんのいいところだと思う。

「別に誤解されたままでもいいけど。不都合なさそうだし」

桐島くんの配慮は嬉しいが、昨日もそれで、一方的な言いがかりには腹が立ったけど、反論はしなかったわけだし。
正直、とても不愉快だったのですすんで思い出したいわけでもない。

「まあそう言うなって。悪い奴じゃないんだ。ほら、意外と仲良くなったりしてさ」

悪い人だとは思っていない。
失礼な人だとは思っているけど。