僕らが今いる今日は

 他人に見られながらの作業というものはやりにくくて仕方がない。
いい加減課題に取り組めばいいのに。
 油採用の平筆をキャンゾールにつけて、さあ塗ってしまおうと筆を持ち上げたところで、またしても相澤に、差し止められてしまう。

「俺さ、陸上部なんだけど…
今度良かったら、俺の走っている絵描いてよ」

 声色に困惑が混じっている。
無理して話題を探したのがバレバレだ。

 絵を描いてくれなんて今までだって腐るほど言われてきた。
自分で言うのはアレだけど、周りの人間より多少絵が上手いというのは、もちろん自覚している。
才能があると言われてきたし、中学のころから全国レベルで実績も残してきている。
でもそれを、安売りしたことはないし、したくない。
だから半分廃部状態の美術部しかない坂高に、来たのだ。
それもセンちゃん先生の勧めで。

 陸上のことなんて全く分からないけど、才能もセンスもない人間が努力だけで上に上がれるほど甘くないはずだ。
相澤は陸上部のエースとも、実力も全国でトップクラスとも聞いていたから、少なからず、天才型だと思っていた。
そういう人にまで、今までと同じようなことを言われるとは思っていなかっただけに、ますます相澤の無神経さに落胆してしまう。
相澤だって、陸上をやるのは自分のためだろう。
見ず知らずの人のために陸上をやっているはずがない。

「…相澤君でしょ?」

「えっ、そうだけど、どうして俺の名前知ってるの」

 白々しい。
もし本当に自覚してないのなら、今すぐ「あんた有名人なのよ?」と言ってやりたい。
自分と立ち位置も、周りの気持ちも迷惑も考えない。
わたしはこういう人、大嫌いだ。