笹山杏奈、二十歳。


あたしは知らなかった。


奴の正体を。




「あんにゃー、早くー」


念のため言っておく。

あたしの名前は『あんな』であって、『あんにゃ』ではない。


「はーい、できたよーっ」


今日は二人でお鍋。

あたしは出来た鍋を机に運ぶ。


「うわー、おいしそう!」


無邪気に喜ぶのは、彼氏の宮川幸人。

元は高校の同級生。


付き合ってまだ一ヶ月。

されど一ヶ月。


この間にあたしは気付いた。

というか、気付かざるをえなかった。