「うん。何でも聞くよ」

優しい元気の声。腕の隙間からあの安西とかいう女の人の顔が見える。明らかに悔しさで歪んでいる。ざま~みろ。

「明日どっか連れてって」
「え~っ、明日はあたしと約束してるでしょ~!?」

安西さんの悲痛な叫び。負けない!

「元兄ィ~……」
「悪ィな安西。まぁ鍵忘れたのもお前からの呼び出しのせいだし……今回は桜に付き合うわ」
「え~マジでぇ。最悪…」

-よしっ!-


ニコッと笑って元気を見上げるとニコッと返してくれる。桜はこの自分に向けられた笑顔が大好きだった。しかも離れてよく見ると、初めて見る元気の制服姿。白いシャツに黒のパンツ、黒のサロンエプロンが実によく似合う。

-カッコい~い!元兄ィ好き~☆-

「俺まだ仕事あって送ってやれないけど、タクシーよんだからそれで帰れ?」
「うん」
「はいこれ…」

元気はポケットから財布を出すと五千円をだして桜に渡す。

「ダメだよこんなに。私タクシー代くらい持ってるから……」
「いいからこれで帰れ?」

強引にお金を持たされ裏口からタクシーに乗せられる。

-元兄ィ…好き。大好き。やっぱ振り向いて欲しいよー


今まで出来る限りの努力をしてきた。背は伸びなかったけど、体重増えないように間食も控えたし、括れができるように体操もした。いつ触られてもいいように手入れも毎日念入りにして吸い付くようなきめの細かい肌を保っている。でもはっきり言って五歳年上なのはデカい。大学生の元気と高校生の桜。大人とお子ちゃま…さっきの対応でも感じた妹をあやす様な扱い。本当は女性として見て欲しい。さっきの女性。確かに元気に向かって色気を発していた。大人の女の色香。完璧分が悪い。でも諦めたくない。三兄弟の中で長い間ずーっと元気だけを見て来た。好きになって貰いたいんだ。温めてたこの想い、受け止めて欲しいから。


家に着いても真っ暗。誰も向かえてくれる人がいない夏なのに寒い家。桜は電気をつけないと1人で眠れない。人肌恋しさに涙が止まらない。

-元兄ィ…寂しいよ-
ベッドに潜り込み今晩も枕を濡らしながら眠りにつく……。