「桜ちゃん泊まってく?」


リビングでパパとママとテレビを見たり話をしたりして元気の帰りを待っていたけど……。いつの間にか12時を過ぎてしまった。

-早く帰って来るって言ってたのになぁ…-

桜の溜め息を見てママが頭を撫でてくれる。ママはどんなに早い時間でも笑顔で迎えてくれるし、どんなに遅くなっても帰れとは言わない。自分の家に帰っても一人なのを分かってくれてる。そんな隣りの家のパパとママが桜は大好きだった。

「桜ちゃんは本当に元気が好きなのねぇ」
「うん。大好き☆本気で相手にして貰えないけど…」
「まぁ息子達の中では一番まともだものね」

ママがお茶を淹れてくれる。


「あ、来週勇気達帰ってくるみたい」
「うそ♪勇気兄ちゃん久しぶりに会えるんだぁ♪」


毬谷家の長男、勇気は25歳。既に家庭を持っていて、今は仕事の関係上離れたところに住んでいる。


あくびが一つ出る。今日は何かと疲れた気がする。

「桜ちゃん、元気の部屋で寝てなさいな」
「は~い」


主の居ない部屋。元気のシャツをパジャマ替わりに着てベッドに潜り込む。やっぱり1人だと電気を点けてないと眠れない。

-元兄ィの香り~…-
安心する香り。桜は深い眠りに落ちていった……。


どの位経っただろうか。廊下で話し声がする。

「まぁた午前さまかよ。約束破るなんてらしくねぇな」
「うるせ」
「女物の香水の匂いぷんぷんするぜ?」
「…………」
「桜が我慢してたの知らなくねぇよな」
「あぁ………」
「お兄ィが守らねぇなら俺が桜貰うからな」
「お前その手は…」
「何でもねぇよ。それより部屋で桜寝てるからな。匂い消してから入れよ。これ以上泣かすな」
「わかってる…」


夢うつつに所々しか聞き取れない。元気と太陽の声…元気が遅かったのはあの女性の為だとまどろみながら思った。やっぱり自分は対象外なのか、元気は自分じゃなく他の女性を暖めていたのか。

-あったかい…-


自分以外の温もりを感じて目を覚ます。いつの間にか元気の腕の中にいた。寝息が聞こえる。元気の身体に足を絡めてギュッと抱き付く。心臓の鼓動が聞こえて安心する。桜はまた深い眠りに落ちて行った……。