「この野郎!」

仲間を倒され、残った二人は各々ポケットから刃物を取り出す。騒ぎに気付いた通行人から悲鳴が上がる。太陽は顔色一つ変えず、すぐ自分の後ろに桜を庇うと指で『こいこい』と相手を挑発した。

「うるぁっ!」

向かって来る2人を桜を庇いつつ無駄のない動きで交わしてものの数十秒で倒してしまった。

「ふん。歯応えねぇなぁ」


-ファン、ファン…-

「やばっ、パトカーの音!太陽早く…わっ」


桜が腕を掴むより早く太陽は桜の身体を抱え上げて駆け出した。


逃げ足が早いとはこの事だろう。あっという間に現場から遠ざかり、ショッピング街から少し離れた駅近くの緑地公園前で桜の身体はやっと地を踏んだ。



「はぁっ…しんど」
「…太陽ありがと」
「つうかお前なんであんなとこに一人でいんの?今朝元気兄ィと出掛けたって聞いたけど?」
「………元兄ィのバイトの時間早まったから。女の人に呼び出されて…昨日見たの。濃い香水の匂いの胸が大きい桜よりずっと大人の女性……」

こんなこと太陽に言ったってしょうがないのはわかってる。でも胸に渦巻いた黒いものを吐き出したかった。

「ふーん…」

足下の石ころを弄びながら素っ気ない返事。しばしの沈黙……。ふと太陽を見るとなんか動きが不自然。どうも右側を桜に見えないようにしてるふう。右手をGパンのポケットに突っ込んでるけど……
「太陽。ちょっと右手見せてみ?」
「なんで……」
「………やっぱり」


無理やり出させた太陽の右手。甲から血が流れている。

「たいしたことねぇよ」
「ごめん」
「謝まんな!大体カッコ悪ぃだろ。ほっといたら止まる。それより家まで送るから」


でも血管の上が切れたのかダラダラ流れて指を伝い足下に染みを作る。桜は鞄からハンカチを出すと太陽の手にギュッと押しつける。
「おまっ……汚れるじゃん」
「いいの!このまま病院行こ。この先におっきい病院あるから」

振り払おうとする太陽に渾身の力でしがみつく。絶対手を離さない。あんな事されて嫌いなはずなのに。でも長年一緒にいた幼馴染み。本気で嫌いにはなれなかったみたい…。

「桜ちゃん……胸が当たってますけど?」
「うっさい!病院行くよ!」