とおりゃんせ、とおりゃんせ。
 電車の通るあいだ、女性の姿は見えない。にも関わらずその女性の姿を目で追っている自分がいる。
 そんな自分の姿に気付いて私の頬は赤くなる。
 そこで私はこの心の動揺に対して無視を決め込む。
 その様子を一般的に「気取って」と表現するかもしれないが、私はクールさとハードボイルドに憧れる平凡で引っ込み思案な男子大学生-ついでに一人暮らしで一人身の- だから、そんなことには気も揉まれることなくなんの気もないように、平静を装っていた。。

 -電車が通過する踏み切りの向こうに佇んでいるのであろう濃紺の制服を着た女性が、のちのち私の運命を大きく変えるきっかけとなってしまったということを誰が予期しただろうか。

 これは、きっと恋なのだ。

 こんな素敵な恋物語が今まで、存在しただろうか。

 電車の通る間、そんなくだらない妄想をしていた、私の脇は、甘かった。