「ねぇ知ってる?」


一人の女は身を乗り出した。

酒を飲んでいたほかの女達も、同じようにして身を乗り出す。



「・・・・・死神船の、はなし」

「あぁ、私知ってるわ!“女神”が乗ってるって話よね!」

「違う違う、それもあるけど、その船の前を通った船は、跡形もなく消されるそうよ」

「死神船は、どの海賊にも負けないんですって」

「逆に怖いわよね」


カラン、と酒の中の氷が割れた。


「私、旦那が漁師だから毎日港に居るけど、そんな船は見たことないわ」

「私もよ。私は“女神”が見てみたいわ」

「母や父は見たって話をしていたけどねぇ」

「あぁそれ、うちも」


一瞬だけ、その場が静かになった。

ひとりの女は口を開く。


「・・・まぁ、それもすべて私が小さい時に聞いた伝説なんだけど」

「二十年は前よね」

「そう、伝説。」



カランカラン。

飲み干された酒のコップで、氷は踊った。





fin.