ボクは桜、キミは唄う







────私、覚えてる。

小学生の柚木君を知ってるんだよ。

だって、あの日、太ったおばちゃん先生に隠れて、柚木君には私の姿は見えなかったかもしれないけど、私は確かにそこにいたの。

ピアノのレッスン中、窓の外からガサゴソッと音がして、木の枝に掴まる男の子を見つけた。

けど、すぐに枝が折れて、男の子は真っ逆さまで。

私は驚いて窓を開けて校庭を見下ろしたんだ。

そしたら、芝の上で寝転がったまま、男の子は誰かを捜してるようだった。

前髪が風に揺れてフワッと持ち上がって、日の光を浴びて、金色に輝いて見えた。

綺麗……。

そう思ったの。

それで、誰だろう?って。

この学校の子かなって。




もしかしたら、私はあの日、あの男の子に恋をしたのかもしれない。

小学生の、柚木君に。