ボクは桜、キミは唄う

「柚木君」

私は音楽室にまだ足をかけた状態の柚木君に手を差し伸べてみた。

柚木君は伸びた前髪の隙間から私を覗くようにしてから、手を取り、音楽室に入り込んで来る。

そのまま入り口へ走り、ガチャッと鍵をかけた。

「はぁ~。やっとだぁ」

ホッとしたように振り返り、まいったよって笑う柚木君。

「大丈夫だったの?」

「とりあえずワイシャツのボタンを配って逃げてきた。あーあ、あいつらに渡す予定じゃなかったのに」

本当まいったよって、照れくさそうに髪をかきあげる。

こんな風にまた普通に話が出来るようになるなんて、それが嬉しくて、私はつい話すべきことも忘れて見つめてしまっていた。