ボクは桜、キミは唄う

柚木君が音楽室に入り込もうとした時

「柚木君ー!何してるの?危ないから降りなさーい!」

今度は駆けつけた三浦先生が、こっちを見上げて叫ぶ。

「やばっ」

柚木君は慌てて

「先生、今大事なとこだから、ちょっと待って」

なんて言う。

「いいから、降りなさーい!」

先生は口元に手を当てて大声を響かせる。

でも、綺麗なソプラノはまるで唄ってるみたいで、なんとなく心地よさを覚えてしまう。

口に当てられた手に、日の光が反射して一瞬何かがキラッと輝いた。

左手、薬指。

三浦先生の声に気づいてか、後方からヤレヤレという感じでやって来た山崎先生を見つけた柚木君は

「少しは山崎見習って、空気読めよ~」

って笑った。

桜の木の下までたどり着いた山崎先生は、三浦先生の肩に手を回し、「まぁ、まぁ」となだめてから、柚木君に向かって満足げに親指を立てる。

「あなたは、教師なのにそんなだから!」

「卒業式くらい、多めにみてやんないと」

「卒業式という大事な節目だからこそ…」

「固いこと言わないでさ~」

「もぉ!昔から変わらないんだから、あなたは!いつまで経っても少年のまま」

「はいはい」

「だから……」

言い合いながらも少しずつ引っ張られる三浦先生。

2人の声が遠くなっていく。