ボクは桜、キミは唄う

そして、差し出された右手。

私も右手を差し出しその手を握る。

「ありがとう」

そう言ったのは、私ではなくて、佐々木君だった。

そして先に手を離した佐々木君は、「俺の次の恋は、全力で応援してよね!」と、満面の笑みを浮かべ。

じゃあね、と手を振った。

佐々木君の気持ちを無駄にしないためにも、今度こそちゃんと柚木君に気持ちを伝えよう。



向かう先はひとつ。



──音楽室。

そこの重い扉を押し開けると、満開になった桜が目に飛び込んできた。

柚木君と過ごす、3度目の春。

ピアノの前に座り、深呼吸をして、鍵盤の上に指を乗せる─……

ここにいて、ピアノを弾けば、きっと柚木君に届くはず。

佐々木君が教えてくれた、私にできる魔法。

私はここにいるよ。

ここに隠れて、待ってるよ。






曲は、5年生の音楽祭で弾いたもの。

柚木君の為だけに唄う。







あの頃、同じクラスなったあなたに、話しかける勇気もなかった。

告白されても、頷くしかできなかった。

隣にいても、あなたに守られるしかない私だった。

だから、今度は自分の足でしっかり歩いて。

そして、私が守りたい。

だから柚木君、大船に乗った気分で──……って言ったら、柚木君は、ナカちゃんみたいに『沈没寸前じゃん』って笑うかな。

笑って、くれるかな。

同級生はみんなよくわからないと言っていた私のピアノ。

柚木君は気付いてくれた。

もし今もどこかでこのピアノを聴いてくれているなら……。