ボクは桜、キミは唄う

教室か、玄関にいれば会えるだろうか。

立ち止まって迷っていた時、隣で、ふぅと息を吐き出す音が聞こえた。

「佐々木君?」

いつからいたんだろう。

壁にもたれかかったま眉をたらして苦笑いする佐々木君は、私と目が合うと、しょうがないなぁって、またふぅと息を吐き出す。

「もしかして、まだちゃんと伝えられてないとか?」

「う……ん」

「本当に手がかかるねー君たち」

その時、柚木君の叫び声が聞こえた。

「うあっ!な、なんだよ、ダメだって」

「ずるい!こんなとこに隠してたの?」

「や、ダメだって!」

「1個くらいいーじゃん!最後なんだし」

「無理!!」

なにやら田辺さんと言い合ってる様子。

そしてそのまま駆け下りる足音が聞こえてきた。

ダダダッ

「柚木、待って」

田辺さんに追いかけられて走ってきた柚木君は、私を見つけると

「あ!」と言って私の手を掴んだ。

そのまま一緒に走り出そうとしたけど、田辺さんがすごい形相で追いかけてくるのを見つけて

「あーもー、ダメだ。ちょっと待ってて。いや、隠れてて!絶対行くから!」

と言って逃げて行ってしまった。

そして、逃げながら

「佐々木!頼む」

と叫ぶ。

「ちょっと柚木捕まえてー!ボタン欲しい子、柚木持ってるよー!」

田辺さんは追いかけながら周りにいた女子に向かってそんなことを言っていた。

まだボタンが残ってたんだろうか?

「ボタン?欲しい!欲しい!」

途端に柚木君は、女子に囲まれてしまった。