ボクは桜、キミは唄う

振り向いた北川君はナカちゃんの影にいる私を見つけると

「あ?さあ?またどっかで告白されてんじゃね?朝からもうあいつあちこち呼び出されて大変よ?走り回って大忙し」

と言ってからニヤッと片側の口角を上げた。

ズキン。

「あーもー!もどかしい!」

ナカちゃんが足をドンと鳴らす。

「真菜、つーか、これいらねーの?」

北川君は第2ボタンをプチッと外してナカちゃんに差し出した。

でも、それより何より、北川君がナカちゃんを真菜と呼んだ事に私もナカちゃんも目を丸くして驚いていた。

「いつまでも突っ張ってんじゃねーよ」

そう言いながら笑う北川君はナカちゃんの首に腕を回すと

「こいつ、借りていい?後は自分でなんとかできるよね?」

私に聞く。

「や、楓花、私も手伝っ」

言いかけたナカちゃんを私は止めて

「うん。大丈夫。北川君、ナカちゃんよろしくね」

手を振った。

いつまでもナカちゃんに甘えて、二人の邪魔してたんじゃダメなんだ。

これは、私の問題。

私が解決しなきゃ。

「そうだ、工藤ちゃん。あいつに会ったらさ、ポケットの中見せてもらいな?いいものが入ってるよー」

駆け出そうとした時、思い出したように北川君は私を呼び止め、そんな事を言って親指を立て、ニッと笑った。

いいもの?

何だろう?

とりあえず頷いてみると、北川君は満足げに歩き出した。