「知ってるか?工藤」

ボーッとしていた私に、先生は

「音楽室から見える桜の木があるだろ?」

私の頭にポンと手を乗せて話し始めた。

「あれな、恋の神様なんだ」

「え?」

ここで、冗談?

先生のおかしな話に一気に現実に引き戻された私は、目を細めて先生を見た。

でも少しもふざけた様子のない先生は

「で、ちゃんと俺らの話聞いてるんだよ」

なんて言う。

「それは先生の作り話?」

首を傾げて聞くと

「バッカお前。あの桜はな、ずっと素直になれなかった少年の心を動かしたすげーヤツなんだぞ?あれは絶対神様だ。んで、あの桜に誓った恋は必ず成就するんだぞ」

「成就した人がいるんですか?」

「おぉ!むかーしむかしな、可愛い新任教師がいてなー。まだ中学生だったある少年はその教師に恋をしたんだけど、まぁ意地っ張りでうまく気持ちを伝えられないわけよ。

気を引くためにわざといじめたり、睨み付けたり、校則違反してみたりが精一杯で。

けど、卒業式の日、あの桜が言うんだ。お前それでいいのか?って。そうやって卒業してもう会えなくなってもいいのか?ってさ。

意を決した少年はその桜の下で、先生に言うんだ。

『今はまだ15歳の、あんたにとってはただの子どもでしかないけど、いつか必ず迎えに来るから、待ってろ』ってね」

「その少年って……」

もしかしてもしかすると?

「桜ヶ丘中学校の、超イケてる体育教師になったらしいぞ?」

「ぷぷっ」

私は吹き出してしまった。