【水曜日】



「美味しそうなお弁当だね」

「……」

「あ、ちょっと
ストップ待って頼むから。
ここで逃げられたら俺多分叫んで泣く」

「…やめてください」

「うんだから座って。一緒に昼ご飯食べよう。ね」

「……」

「…そんな目で見られたらどきどきするな。
…下半身が意思を持ちそうなんだけれど…いいかな」


「……」


「あ、嘘ですごめんなさいイヤ嘘ってわけでもないんだけど堪えますスミマセン」

「……嫌がらせですか」

「え?」

「トイレの芳香剤って言ったこと謝ります。
だから勘弁してくれませんか」

「どうして。
俺はその言葉に感謝してる」

「…は?」

「だってその言葉がなかったら俺はまだまだ方向性を見つけられず鬱のままだった」

「方向性?」

「俺が何をやりたかったか。

何になりたかったか。

何が欲しかったか。

女性うけとか全然関係なくね。

だから俺今楽しいよ。

周りの評価を気にしなくていい自分ってこんなに楽なものなんだね」

「…でも」

「ん?」

「…やっぱり、トイレの芳香剤は失礼でした」

「…でも結局、俺もそう思ったわけだから」

「でも」

「俺にとって重要なのはね。
感性が同じ女性に出会えて、その人が俺の『偽り』に惑わされていなかったって部分なんだ」

「…………」

「そしてその女性はとても強くて凛とした美しい人だ。
しかも…料理もうまい。
これ君の手作り?」

「あ」

「おいしい」

「…遠野さ…」

「いいお嫁さんになるよ」

「…そ、そんなことは…」

「…こんな味知っちゃったら、あの台詞を言いたくなるな」

「……は?」


「毎朝…俺のために味噌汁を作」

「お先です」

「あ、ちょ、ちょっと待っ…」