私のこと、知ってくれていた。

ドキドキする。


「有名ですよ。あそこの花はすごく綺麗で長持ちするって。貴女の扱い方がいいからでしょうね」

「そ…そんな事は」


憧れの人に誉められているという状況に顔が熱くなった。


「貴女の一番好きな花は何ですか?」


魔法みたいな動作でブーケを作りながらそう聞かれる。

こんなに話をしてもらえるなんて思ってもみなかった。

宙に浮いてしまいそうなくらい舞い上がりながら私は答えた。


「かすみ草です」


意外な答えだったのだろう。

彼は一瞬手を止めてぽかんとした顔で私を見つめた。


「かすみ草?」

「はい。大好きなんです」

「…でもそれは…」

「はい」


笑う。


「それだけじゃブーケもパッとしないし地味な花です。でも他の花を輝かせるのにこの花以上の花を知りません。雪の様に光の様に他を輝かせて微笑むこの花が、一番優しい花に私は思えるんです」


彼はしばらく黙って私を見つめていた。

その瞳は優しいものだった。

けれど、その表情は複雑だった。


それがなぜか、その時の私は考えもしなかった。