少し緊張しながら店に向かう。

向かいの店で働く男性は私の憧れだった。

いつも優しく語りかける様に花に接して、まるで彼らがそう望んで生まれてきたかの様なブーケを作るその人を、向かい側からずっと見つめ続けてきた。

強烈な憧憬と、淡い恋心で。

その彼の店に行くのは実は初めてなのだ。

ドキドキする。

だが。

兄から受けとったメッセージを見て陰鬱になる。


『さっさとおちろ』


いくら何度かプロポーズを断られているとはいえ、この台詞。

こんなメッセージを渡されても、決して嬉しくはないはずだ。

悲しい気分にさせられながら、店に着いた。

綺麗な店。

もしかしたら向こうも私の事を知っているかもしれない…などと期待を持ちながら声をかけると、彼は一瞬だけ驚いた様な顔をしてすぐに優しい笑顔で歩いてきた。


「いらっしゃいませ」


第一声が『同業者』へのものではなく『お客様』へのものな事に少し落ち込む。

やっぱり知らないか…。

と思いながら、私も笑顔を作った。


「あの、ブーケを作って欲しいんです」

「どんな?」


さっさとおちろ

みたいな。


…とは、私の口からは言えなかった。


「あ…兄に頼まれて…」


しどろもどろになりながらメッセージを渡す。

彼はそれを受けとり、その言葉を見てなぜか一瞬笑顔を消した。





どうしたんだろう。

そう思っていると再び彼は笑ったが


「なんだ…そういう事か」


その言葉も笑顔もどうしてかすごく冷たいものに感じた。


こんな笑い方する人だったっけ…?


戸惑っていると


「どんな花を入れますか?」


すぐにいつもの優しい顔と声に戻る。


気のせいだったのかな…。


とりあえず定番の薔薇を指定してあとは任せた。

彼が花を選びブーケを作る間の時間を会話でうめる自信がない私は並べられている花達を見る。

ここの花達はとても凛としていて綺麗。

そう思う。


「向かいの花屋の方ですよね?」


突然そう話しかけられ、心臓が飛び出る程驚いた。