思い出博物館

「とても楽しかったです。また来てもいいですか?」

 僕は言いながら、店主に礼をした。

「ええ、お待ちしておりますよ」店主はにこやかに微笑んで言った。「では、これを」

 店主は僕に紙を渡した。

「地図です。今まで、忘れていたのは、これなんでしょう?」

 すっかり、忘れていた。道順だけでなく、道に迷っていたことも。
 僕はまたも礼をしてそれを受け取った。

「では、お父さまにもよろしくお伝え下さい」

「はい」

 僕は頷きながら、軽く笑った。そう言っても、今日のことは父さんには言えないな。まさか、息子に忘れられて、店のおじさんに保管されていたなんて。知ったら、ショックで寝込んでしまいそうだ。

 そんなことを思いながら、僕は父さんの方位磁石を手のひらに、地図を片手に家へ急いだ。


【完】