思い出博物館

 その指先を見て、僕は思わず吹き出した。
 それは、紛れも無く、大きな硝子ケースに入れられた――、

 僕の父さんの姿だった。

「面白いですよね。まさか、人間が来るなんて夢にも思っていませんでしたよ」

 確かにそうだろう。そう思いながら、僕は笑いを必死で噛み殺した。

「これっていつ頃ですか?」

「えーと、二年前ですね」

 結構、最近なんだ。

 もしかしたら、高校受験の時かも知れない。今じゃ、ふたりして馬鹿みたいなことを言いあっていたりしているけれど、昔からじゃない。むしろ、昔の僕たち親子の関係は険悪だった。

 受験の時もそうだった。受験直前に父が折れるまで、志望校の意見は合わず、顔を合わせる度に言い争いしていたような気がする。でも、受験が一応終わり志望校に入れた時は、自分が行かせたかった学校じゃなかったにも関わらず、すごく喜んでいた。僕の合格祝いだって、寿司を大量に頼んで、良かった、良かったって何回も言いながら。その夜、酒を飲んで酔っ払った父さんは、とても子供っぽいし、何回も同じことを言うしで手がつけられなかった。でも、僕のことばかり喋っていた。誰に話しているつもりなんだか知らないけれど、とても嬉しそうに話していた。

 その時だと思う。

 僕は本当の意味で、この父さんが僕の父さんで良かったと思った。僕がどんなに、父さんを疎ましく思おうが、鬱陶しさの余り憎しみをぶつけようが、父さんは僕の幸せだけを願っていたんだ。

 他の誰も僕の父親にはなれないのに。

 僕はそんな父さんと少しも向かい合おうとせずに、自分のことばかりだった。