「いいか。フェアってのを間違えんなよ」

ボロボロ泣く兄の頭を撫でながらその人は言った。


「これは貸し借りじゃねえ。お前は俺を信じてくれた。だから俺はそれに応える。それがフェアって事だ」

「でもそのせいで先生が」


堪えきれない様に呻く兄。

いつも堂々としていて怖い物なんか無いみたいな人が、こんなにも弱っているのが私には衝撃的だった。


「いい年して泣くな。いいか。お前は間違ってなかった。世の中ってのは都合のいい様にフェアを歪める。そんな中でお前は正しかった。俺はそれを誇りに思う」


後からになってその時の事を聞かされた。

兄は弱い人からお金を巻き上げる質の悪いグループを弾圧したらしい。

しかしそのグループのほとんどが進学校の優等生で構成されていたから、事態がややこしくなった。

うちの子はそんな事しません。と、いうやつだ。

一方兄は商業校で喧嘩好き。

世間の目は悪役をキッパリと兄に定めた。

警察でさえ兄を疑いあしらった。

兄は自棄になり刃物を振った。

それを身をもって止めたのが兄に『先生』と呼ばれた人だった。

その人が兄を止める際に負った傷は小さなものだったが、世間はここぞと兄を排除しようとした。

それを、その先生は自分の辞職を犠牲に止めた。

どういう駆け引きがあったのか私は知らない。

でも、兄は守られた。


「いいか。フェアってのを間違えんなよ」


その言葉は私にも刻まれた。


フェア。

道徳的に正しい様。
公明正大な様。

自分の魂に
正直であること。


顔も知らないその人に、私は今でも恋をし続けている。