肉屋ふたりの温かな笑い声を後ろに、逃げるように2人で店を出る。

頬も、耳も、首も真っ赤で、人間は赤面で死ねるのではないかと本気で思った。

動揺を抑えるように黙って歩く。

彼も私も…気まずい。

そう思った。

…けれど


そうだったのは私だけらしい。


しばらく歩いたのち、ふいに彼が足を止めた。

忘れ物でもあったのだろうかと訝しみ、顔をあげると

どこか意地の悪い悪戯なその表情が私を見下ろしている。

彼のこんな顔は初めて見た。

彼は努めて落ち付いた低い声を出し、私を見つめてくる。


「…存じませんでした」


不可思議な言葉に首をかしげると、彼が目を細めた。


「姫は俺の笑顔がお好きでしたか」


………な……ッ!!


単調に言われたそれに絶句し、再び真っ赤になった私を見て彼は声をあげて笑った。


「こんな顔でよろしければ、いくらでも」


笑い続けながら歩き出す彼に何を言えばいいかわからず、私はあとに続く。


…からかわれた。

そのことに、心が騒いでいた。

…からかわれた。
彼に。


どこか悔しいそれは、なぜかそれ以上に嬉しい。

彼の以外な一面を見た。

彼の以外な一面にふれた。

それが、それだけが、こんなにも私の中で鮮やかに踊っている。

なぜか。

それはなぜか。

私はもう
気付いている。


…彼が

…咲く。


私の中で
彼が咲く。


…咲き誇る。