『戦い方』を教えるにあたり、姫の身体能力をみた。

どれだけのことが、どこまでやれるか。

基礎はどこからはじめるか。

定理はどこまで理解できているか。

全く期待していなかった俺は少々驚く事となる。

体術は初心でも、剣、弓、槍、馬などにおいて姫はかなりの腕を見せた。

どこか堅苦しい感じはあるものの、基礎の形はしっかりしており心の持ちようも確立されている。

おそらく、人に認め愛されようとした成り行きでこれらに手を出した事があるのだろう。

すべての手技において流派の『クセ』というものがないのも、『指導者』がいなかった証拠だ。


独学でよくここまで。


その事に、胸が痛んだ。

なかなかに良い滑り出しをしたかと思われた姫だったが、ひとつ、絶望的なものがあった。

『持久力』の無さだ。

17年間表立つことを是とされなかった姫は、『体力』面において酷く劣っていた。

なにをしてもそれなりの成果が出るが、すぐに息が切れる。

それは致命的な弱点だった。

それを指摘すると姫は体力をつけようと必死で体を動かした。

重いものを持ち、走り、そうして長時間基礎的な鍛練を自主的にやった。

やりつづけた。

昼夜問わず。

そして、倒れた。

貧血と思われた。

一気に詰めすぎたせいもあるが、何より姫には栄養が足りていなかった。

届けられる食事は選定されたのかと疑うほどに質素を極め、肉や魚がのることなどほとんどなかった。

生きるにも死ぬにもまともにいかぬ身を呪い、姫が悲観しているのがわかった。


…そんなことを、しなくていい。


そう言ってやれない身が呪わしかった。

そんなことを言う権利を持たないこの身分がもどかしかった。

俺にできることは、何だ。

そう考えを切り替えても、それは姫の鍛練の手伝いという場所に納まる。

そしてそれはつまり『死に方の享受』であるという事だった。


それが……虚しかった。


でもそれを望むなら。

あなたがそれを望むならと、食料を街に買いに行くと言った。俺が用意しようと。

…即座に
断られた。