ポタ、と、教科書の上に汗が落ちた。

続けて、ポタタッとさらに落ちる。

やめて。

これ以上周囲に具合が悪いと気づかれたくない。

胃に、熱湯と氷水を一気に流し込まれたような激痛と鈍痛がふりかかり、耳鳴りがする。

奥歯に力を入れ、なんとか体を支える。

目を閉じると痛みに集中してしまいそうで、それすら叶わない。

細く小さく呼吸をしながら、ひたすら授業が終わるのを待つ。

『保健室の先生、結婚するんだって』

今回の胃痛の原因はわかっていた。




私は一年前、保健室の先生に告白して、玉砕した。


先生が好きですと、伝えた。

必死で、伝えた。

でもその言葉を聞いた先生の瞳は、恐ろしいほどに冷たくなった。


「迷惑だ」


迷いのない言葉は、私を斬りつけた。


「俺はガキが嫌いだ。

たいしたことじゃなくても大騒ぎしては周りを巻き込み、少し不調になれば寝たい休みたい帰りたいと喚く。

恋愛感情と思って近寄ってきては気まぐれに傷ついてみたり離れてみたりする。

お前は違うと思っていた。

お前がここに来るのは本当に辛いからだと思っていた。

そうなのかもしれないし違うのかもしれない。

もう俺には判断がつかない。

ただ、迷惑だ。

そういう気持ちでいられるのも、
そういう気持ちで来られるのも、

迷惑だ」


頑固なその言い分に気づいた。

先生は、過去に生徒に恋愛感情を持ったことがあるんじゃないかと。

もしくは恋人同士だったことがあるんじゃないかと。

そして、
きっと、
ひどく、
傷ついたんだ、

と。