説明する必要もないかもしれないと思いながらも、私は続ける。


「小さな頃、テレビで見るカクテルがとんでもなく美味しそうに見えたんです。

天国みたいな味のするジュースなんだって思ったんです。

でも成人しか飲めないって言われて、
ずっと早く大人になりたいって思ってました。

けど、
いざ成人してカクテルを飲んだら
ジュースだなんてとんでもない、
驚くほどアルコールが強い。

その現実を知って、天国の味を想像していた昔の自分が微笑ましくなりました。

たくさんのカクテルを知って、
歴史上や意味なんかを知って、
もっとカクテルが好きになりました。

でも私にとってカクテルはいつまでも、『少女』の頃に憧れた『女性』の特権であり、
『女性』として味わう時は『少女』の思い出に満ちてるんです」


男性は黙って私の話を聞いていた。

そしてしばらくしてから、そっと、


「素敵ですね」


と言った。


その言い方が、本当に優しかったから、

私はほんの少しだけ救われたような気持ちになれた。